12月8日のGoogleトップロゴはヤン・インゲンホウスですね。ヤン・インゲンホウスの生誕287周年といことです。
ヤン・インゲンホウスとはだれ?あまり聞いたことがない人だったので、どんな人なのかを調べてみました。京大出身の自称物理オタクがこれまでの知識を総動員して、わかりやすく徹底解説します。
インゲンホウスの経歴
1730年:オランダのブレダで出生
1753年:ルーヴェン・カトリック大学で医学博士号を取得
1772年:オーストリア皇族のマリア・テレサ・フォン・ポルトゥガルの侍医、ウィーン宮廷会議の一員に就任
1779年:王立協会の会員になる
インゲンホウスは、オランダの医学者、植物生理学者、化学者、物理学者です。
1772年にオーストリア皇族マリア・テレサ・フォン・ポルトゥガルの侍医となっています。マリア・テレサは、ハンガリー女王、オーストリア女大公でハプスブルク帝国の領袖であり、実質的な「女帝」として知られています。マリー・アントワネットの母としても有名で、宝塚歌劇団『ベルサイユのばら』、『ハプスブルクの宝剣』の登場人物です。
当時ヨーロッパの一等国であるオーストリアの女帝マリア・テレサの侍医ということですから、医師として相当な成功をおさめていたことがわかります。
ちなみに、インゲンホウスの出生地オランダのブレダは、ロッテルダムの南南東30キロに位置し、オランダ南部の主要都市です。主要産業は、流通産業や食品産業で、メントスやフルスクの製造元であるペルフェティ・ファン・メレはブレダに本拠地を置いています。
インゲンホウスの功績
インゲンホウスの大きな功績は、植物の光合成や呼吸作用を発見したことです。
なぜ、医師として大きな成功をおさめていた彼が、そのような発見をしたのか?不思議ですよね。
インゲンホウスの地位に甘んじない、好奇心、探究心が世紀の大発見を可能にしたのです。
イギリスの旅先でインゲンホウスは、プリーストリーが発見した「植物によって空気が綺麗される現象」の話を聞き、大きな関心を持ちます。
インゲンホウスは、侍医としての仕事を置いて、植物の研究に没頭しはじめます。
そして、「植物はいつも綺麗な空気を出しているのか?」という疑問を持つようになります。この疑問を解決するために、ある実験を行います。1779年のことでした。それは、水草を使った実験です。
当時、水草から空気が出ているとは知られていましたが、ふつうの空気であると考えられていました。しかし、インゲンホウスは、水草から出る空気を集めて、火をつけると勢いよく燃えることを発見したのです。
現在の解釈で言うと、水草から酸素が出ているため、その酸素により燃焼が促進されていると理解できますね。
こちらは、酸素がたまったビンの中に火のついた線香を入れた際の動画です。
酸素の存在によって線香が勢いよく燃えている様子が分かります。
このビンに集められた空気は、当時、ふつうの空気ではない、という解釈になったわけですね。
ここで終わらないのが、インゲンホウスのすごいところ。
更に、日光のあたるところに置いた水草と暗闇に置いた水草から出る空気の様子を調べたところ、日光にあたるところに置いた水草だけから、空気が出ることがわかったのです。
この一連の実験から、彼は、次のことを発見するに至りました。
・葉の緑色部分が関係している
・水草からの空気の出かたは、光の影響をうける
この発見は、のちの光合成の解明につながる重要な大発見となりました。
今となっては、小学校の理科で習うことで、わたしたちには当たり前となっていることですが、300年前は全く未知のことだったんですね。
そして、彼は以下の本を残しています。
・植物実験(1779年)
・植物の呼吸作用(1786年)
光合成って何?
せっかくなので、おさらいとして光合成について触れておきます。
名前は聞いたことある方が多いと思いますが、詳しいところはよく覚えていない方も多いのではないかと思います。
わたしもそうでした(笑)
光のエネルギーにより生物が二酸化炭素を同化して有機化合物を生成する過程。
緑色植物の場合には,クロロフィルおよびカロテノイドの働きにより光のエネルギーを吸収し,6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O の反応で,糖類,さらにこれから多糖類を生成する過程をいう。
Googleトップロゴには、この光合成の過程がかかれています。よく考えられていますね。
こちらの動画でわかりやすく光合成について解説されています。
動画の説明の要約です。
・光合成とは、植物が光を受けて、栄養分(主にでんぷん)を作り出す働き。
・光合成は、葉の葉緑体という場所で行われる。
・光合成の原料は、根から取り入れた水、気孔から取り入れた二酸化炭素。
・光をエネルギーとして、デンプンを作り出す。
・栄養分は、植物の体の各部分に送られる。
・酸素は、気孔から外に出される。
光合成という言葉を最初に使ったのは、アメリカの植物学者チャールズ・バーネス(1893年)です。
光合成の原理が明確になることにより、光エネルギーと化学エネルギーの関係について解明が進み、太陽電池などの開発にも大きな発展をもたらしました。
さらに、現在深刻な問題になっている大気汚染や地球温暖化の対策として、植物の重要性が着目され、世界各地で森林保護や植林活動がされているのも、光合成の理解があってこそです。
こういった、現在の科学的進歩や地球環境保護に大きな役割をはたした光合成の原理解明に、インゲンホウスは大きな功績を残したといえます。
人工光合成
現在、植物の光合成の原理を応用して、盛んに研究が進められている分野に「人工光合成」があります。植物の光合成と同じ原理で、燃料や化学原料を作り出そうとしているのです。
太陽光発電も光を使って、エネルギーを生み出すものですが、人工光合成の技術が確立すると、メタノールなどの液体燃料が生成できます。
液体燃料は貯蔵や輸送が可能になるため、非常に便利な燃料になります。太陽光発電は送電ロスがあるため、遠くまで運ぶことが大変です。
さらに、液体燃料を燃やした際に出る二酸化炭素は、生産するときに使った二酸化炭素の量とほぼ等しいことから、環境にも優しい燃料。ということで、「究極の技術」と考えられています。
人工光合成についてもっと知りたい方へ
人工光合成について書かれた最新の本を紹介します。
まとめ
今では植物があると空気を綺麗にしてくれるというのは常識になっていますが、300年前はそんな常識はなかったんですね。
インゲンホウスは、当時当たり前と考えられていた「水草から発生する気体はふつうの空気である」という常識に疑問を持ち、自ら実験を行い、それが間違っていることを突き止めました。
そして、水草から出ている空気は、勢いよく燃える空気であり、日光の当たる場所の水草にだけ、気体が発生することを明らかにしました。
インゲンホウスの発見は、光合成の発見につながる偉大な功績となり、今、現在、このように語り継がれているわけです。
当時、インゲンホウスは医者としても大成功をおさめており、そこで満足してもおかしくない状況でした。しかし、自然界の様々な現象に興味を持ち、常識を疑い、自ら実験し、世界的な大発見をするに至りました。
彼が種痘の技術にすぐれていた医者の身分で満足しているだけだったら、このようにGoogleトップロゴに飾られることはなかったでしょう。
彼の生き方から学べることは非常に多いですね。